

高山荘 華野のレストランへと続く廊下に、ひときわ存在感を放つ作品があります。
それは、アフリカの酋長が代々使用してきた鉄製の杖を、花器へと再構築したもの。酋長の象徴として権威を示す杖の先端に、水を受ける小さな器を仕込み、一本の花を活ける…。
そんな大胆かつ繊細な発想によって誕生したアート作品です。
杖には、トカゲのような爬虫類をモチーフとした装飾が施されており、生命力と再生を象徴するアフリカらしい造形が際立ちます。素材は鉄。時を経たその質感が放つ鈍い光沢は、まるで大地の鼓動を宿すようです。
この作品は、骨董商であり美術評論家としても知られる坂田和實(さかた・かずみ)氏が運営する「古道具坂田」で展示されていたもの。館主の華道の師匠がその美しさに惚れ込み、後に館主が譲り受けて展示することになりました。
華野の館主は「この造形にはコンテンポラリーアートの本質がある」と語ります。形式や国境を越えた美の対話、それが、華野が大切にする“花とアートの宿”の哲学です。
料亭「遊山」で展示されている吹き矢を加工した花器と同様、プリミティブな造形が一輪の花によって完成する。そんな静謐な緊張感と優美さが、この作品にも宿っています。
訪れる方は、アフリカの文化と日本の花が交差する瞬間を、この廊下で体感することができるでしょう。